宙飛ぶ教室

宙飛ぶ教室

 その時、「東京の街」を初めて見た思いがした。この風景は、大阪には絶対ないものである。「有斐閣」とか「集英社」とか「岩波書店」とかいう文字が独特の書体で壁に貼り付けられたビルが建っている。「抽象的」なものが、「具体的」に建っているのだ。そして、早稲田通りとはまた違った古書店が、そこにもここにもある。(p.9)

 神保町に東京を見る時、私の中に浮かんでくるのは、歓びに身体が震えるとか、幼い頃の感激が再現するとかでなく、逆に、自分の故郷にはこういう風景はなかったという痛恨のようなものである。こういう場所を一生知らずに、自分の親は、毎日「具体的な生活」を繰り返して死んでいくのだという哀しみのようなものである。(p.11)

 これはわかる。