残花亭日暦

残花亭日暦

残花亭日暦

(…)母は私たちとにぎやかに食事したあと、自室へ戻ってから、弟に電話していうよう、
〈ご飯は、ハイ、さっき頂きましたよ。ひとりさびしく……セイコ? あの子らは外へ食べに出ました。ハイ、わたしひとり、さびしく食べましたよ〉
 なんてことを、スラスラ、シャーシャーというのである。いつか上野千鶴子さんにその話をすると、〈あ、それ、あるのよ。トシヨリの通癖として、同情されたい、という思いがあって、つい、そんなお話、自分で作っちゃうみたい〉とのこと。(p.58)

 著者はこの電話のことを、「おばあちゃんのお淋し電話」と呼ぶ。自分がこんな誤解をまねく作り話をする母を持つ娘(あるいは嫁)の立場になることを考える。それから、にぎやかに食事をする家族がいても、そんな電話をかけてしまうほどの淋しさを抱えるお年寄りに、この先自分もなるかもしれない、ということ。

 人間は、生まれてすぐと死ぬ前に、圧倒的な愛情を欲するのだ……という、小倉千加子の本にあった言葉も思い出す。