乙骨淑子『ぴいちゃあしゃん』

乙骨淑子の本 (第1巻) ぴいちゃあしゃん

乙骨淑子の本 (第1巻) ぴいちゃあしゃん

 戦時下、通信兵として中国に配属された少年・隆が主人公。彼は、「こないりタバコをくれ」とすがりついてくる人に出会い、宿舎となる中国人の家で通訳を務める少年イェン・ユイに、日本人がヘロイン入りのタバコをよく売っているのだと教えられて衝撃を受けます。日本人はヘロインを取り締まる側のはずだと、最初はイェン・ユイの言うことを信じられずにいた隆ですが、次第にそれが事実であることが隆にもわかってきます。
 ヘロインの製造・密売に日本の軍人も関わっていること、勝っているとばかり思っていた日本があちこちで負けいくさをしていること……日本で思い描いていたのとはあまりに違う現実に、隆は直面することになります。

 どんどん人が死んだり負傷したり狂ったりしますし、隆もたびたび怒りや悲しみや絶望を味わうことになります。しかし、彼はそれでも悠々とそびえ立つ「ぴいちゃあしゃん」(筆架山)に最初から最後まで惹きつけられていますし、死体が転がる雪原でも、雪をかきわけて草の芽が顔を出しているようすには≪きれいだな――≫と思わずにはいられません。そんな風に、人間以外のものの力が大きく、人間同士のどろどろにばかり拘泥していられないせいか、乾いた感じのする物語でした。