シェイクスピア物語

シェイクスピア物語 (岩波少年文庫)

シェイクスピア物語 (岩波少年文庫)

ラム姉弟は、シェイクスピア戯曲の粗筋を散文に書きあらためたのです。いまでいえばダイジェスト版ですが、聡明で深い学殖もあるラム姉弟だけに、原典の味わいはそのまま受け継がれました。(p.232)

 日本の歌舞伎とおなじく、イギリスでも、女優という職業がみとめられるようになったのは、ごく近世になってからでした。女は不浄の存在であり、舞台という神聖な空間に女をのせるなどということは、およそ考えられませんでした。
 シェイクスピアに限らず、エリザベス朝の舞台では、女性はもっぱら少年俳優によって演じられ、作者たちもその点をよく弁えていた、と、ものの本にもあります。つまり、「十二夜」や「お気に召すまま」では、少女に変装した少年俳優が、芝居のなかでは少年に変装した少女を演じさせられるのです。すべてが現実であってしかも非現実であり、虚実入りみだれて、どちらがどちらとも見究めがつきません。
 変装ということは、自分の肉体と自分の性という限界を超えたいという、人間の永遠の夢の実現に他ならない、といったひともいます。あなたは変装してみたこと、おありでしょうか?(pp.239-240)

 訳出されているのは11篇(「テンペスト」「夏の夜の夢」「冬物語」「お気に召すまま」「ヴェニスの商人」「リア王」「マクベス」「十二夜」「ロミオとジュリエット」「ハムレット」「オセロ」)。シェイクスピアについて、この『シェイクスピア物語』を書いたラム姉弟について、そして収録された各作品について、くまなくしかもわかりやすく解説されていた訳者あとがきが、とってもよかった。