川端康成『眠れる美女』

眠れる美女 (新潮文庫)

眠れる美女 (新潮文庫)

 もう男でなくなった老人だけが、「安心できるお客さま」として迎えられる家。その奥に、深い眠りについた美しい娘がいるのだ(ちなみに全裸)。老人たち、娘のそばで眠る一夜のためにそこへやってくる。
 江口老人は道楽をつづけているおかげで、「安心できるお客さま」ではまだないのだが、老人仲間の話に興味を惹かれ、その家を訪れる。江口は娘の傍らで、「女」にまつわるさまざまな過去を思い出す。

女の乳房を美しくして来たことは、人間の歴史のかがやかしい栄光ではないのだろうか。(p.28)

としても、末娘は男友だちにとりかこまれて、陽気で自由でいた、勝気な娘だけに、江口は安心していたようだ。でもことが起こってみると、むしろなんのふしぎもない。末娘だって、世の女たちとからだのつくりがちがっていはしない。男の無理を通されるのだ。(…)末娘のことがよしんば男の愛情の火事だったにしても、それをこばみきれない娘のからだのつくりに、江口はいまさら思いあたった。(p.62)