小池昌代『屋上への誘惑』

屋上への誘惑 (光文社文庫)

屋上への誘惑 (光文社文庫)

 気が楽になったから本が読めた。ここのところ余裕がなくて、何度も読んだことのある本を、またじりじりと読むようなことしかできなかったのだけれど。やっと新しい文字を受け入れられるようになったみたい。
 初めて読む本。初めて読む著者。でもたぶん私、これ好きなんじゃないかな、と思って買った本だった。そしてやっぱり好きだった。

俺が覚えている今までで一番静かな時間は
俺の足が切断されたときだ
その他で言えばーー
好きなひとといる時間
そしてメイクラブをしているときの時間
ああ、それから
俺が、ナンバーを当てた瞬間
それで八〇〇ドル儲けたときがあったんだが
あれは静かな時間だったな
ほんとに静かだった

 作中で紹介されている、老人が「静けさ」というテーマで書いた詩。かっこいい、と思った。最初から最後まで。