捨てる

 子どもの頃は物を捨てるのが苦手だった。くだらない落書きをした紙きれとか、どんなにゴミみたいなものでも、それが永遠に自分の手を離れてしまう、二度と触れなくなってしまう、というのはものすごく怖いことに思えたのだ。

 でも年齢が上がっていくにつれ、なんでもかんでもとっておいたらきりがない、とっておいて大事にしていられるものはそんなにたくさんはない、ってことに気づいてきて、だんだん捨てるのが苦にならなくなってきた。

 要らないものを捨てることでさっぱりした気分になるにつけ、要らなくなった物にも執着して、捨てるのを惜しんでいた小さな子どもの時分を思い出す。多分、その物もそれにまつわる記憶も全部抱えて生きていくつもりだったんだろうな、と思う。自分でも把握しきれないほど自分の世界が広がるなんて、全部覚えておいて全部抱えて生きていくのは無理だなんて、当時は知らなかったのだ。