「乙一」にまつわる諸々

 乙一の小説に「はまった」のは高校生の頃だ。わたしがずっぽりはまる話のほとんどは女性作家の手による女の子の話だった(その傾向は今もさして変わっていない)から、これはけっこう異例だった。怖いの残酷なの嫌い、そんなのなるべくない方がいい、というわたしの好みから、かなり外れている話も多かったという点においても。

 でもはまった。高校生の時抱えていた、人に嫌われるのが怖い人に評価されるのが怖い生きていくのが怖い、って気持ちに、乙一作品は見事に添っていたから、だと思う。出会う時期が少し遅れていたら、きっとあんなに夢中にはならなかった。

 それが、わが家にネットが開通する時期と重なったから、同時に公認ファンサイト乙一FAN!掲示板通いにも夢中になった。本を読む楽しさは幼少時に覚えたのだけれど、読んだ本について語る楽しさはここで初めて知った。

 だから、高校生の時にいちばん通ったサイトは乙一FAN! だし、いちばん多く書き込んだ掲示板は乙一FAN'S BBS だと思う。
 大学生になってから参加した、人生初のオフ会もそこでのものだったし、mixiに誘ってくださったのもそこで知り合った方だったし(だから初期のマイミクは、乙一FAN! 関連の方ばかりだった)。大学の基礎演習で乙一をテーマに選んで発表したら、なぜか教授に翌年までこのことを覚えられており、「卒論は乙一にしないの?」と言われたりも、したし。

 乙一作品を好きになった高校時代の記憶は年ごとに懐かしいものになっていくけど、好きになったことがきっかけになって起きた出来事が自分にとって重要なものばかりであるせいで、「乙一」という作家名の特別さは年ごとに増している。