サロメ

サロメ (岩波文庫)

サロメ (岩波文庫)

 サロメの美しさも、サロメがどんなにヨカナーンのことを思っているかも、王がサロメを見る目つきがヘンタイっぽいことも、幾度も言葉を重ねて語られる。

恋してゐるのはお前だけ……あたしはお前の美しさを飲みほしたい。お前の身体に飢ゑてゐる。酒も木の実も、このあたしの欲情を満してはくれぬ。(p.87)

 ひたむきな欲情だなあ、と思う。切り離して読もうと思ったけれど、どうしても、「サロメ」を知るきっかけになった『樹上のゆりかご』を思い出してしまう。

樹上のゆりかご (中公文庫)

樹上のゆりかご (中公文庫)

 ヘロデ王に好色な目で見られて、うとましく思って逃げてきた彼女は、みんながサロメを形容する言い方でヨカナーンのことを言っている。月のように清らか、冷たい、銀の像のようだって。そして、純真な乙女だから、慕わしさと触れたい思いを区別しなかったのよ。でも、もともと区別なんてできるものかしら。サロメは、素直な方法でただ賛美したかったのだと思うの(p.201)