仮面の告白 (新潮文庫)

仮面の告白 (新潮文庫)

そしてここでは、私は一人の男子であることを、言わず語らずのうちに要求されていた。心に染まぬ演技がはじまった。人の目に私の演技と映るものが私にとっては本質に還ろうという要求の表われであり、人の目に自然な私と映るものこそ私の演技であるというメカニズムを、このころからおぼろげに私は理解しはじめていた。(p.29)