友人のひとりが離婚したとき、「マンションを奥さんにあげてローンを僕が払うことになった」と云いながら、満面の笑みを浮かべていたことを思い出す。そんなにも離婚したかったんだなあ、と思って感動する。
五千万円をただ支払って満面の笑みを浮かべるなんて、座禅を組んだり滝に打たれるなどの修行を長く積んだ高僧にも難しいのではないか。(…)座禅も滝もなしで人間の意識を高めてしまう(?)結婚というものを、私は心底おそろしく思った。

(穂村弘『本当はちがうんだ日記』pp.69-70)