島本理生 『一千一秒の日々』 マガジンハウス

一千一秒の日々

一千一秒の日々

 「風光る」「七月の通り雨」「青い夜、緑のフェンス」「夏の終わる部屋」「屋根裏から海へ」「新しい旅の終わりに」は、雑誌『ウフ』に連載された作品群。作品同士がリンクしている……というか、語り手は変わるけれど登場人物は共通しているんですね。作品名と語り手を並べると、こんな感じ。

  • 風光る」真琴
  • 「七月の通り雨」瑛子(真琴の友人)
  • 「青い夜、緑のフェンス」針谷(真琴・瑛子がよく行くバーの店員)
  • 「夏の終わる部屋」長月(針谷の友人)
  • 「屋根裏から海へ」加納(真琴の元恋人)
  • 「新しい旅の終わりに」真琴

「むしろ自分が他人と付き合うことができるかどうか分からない。深くかかわることで、お互いにどうしても理解しあえない部分を見つけてしまったり、期待しすぎて逆に失望したり。そういうのが嫌なんです」(P.54)

 主な登場人物たちは大学生なので、大学生のわたしからすると、身近に起こり得る出来事が事細かに描かれすぎている感じがして気持ち悪いくらいでした。
 「青い夜、緑のフェンス」の針谷くんと一紗の関係性はいいなあ。

なにか問題があったとき、男の場合はだれかに話したりせずに一人で考えたいと思う傾向が強いらしいんだ。だけど女の人は逆で、話して発散しようとするんだって。(P.186)

 ここ読んで、『風味絶佳』(山田詠美文藝春秋)に出てきた文章を思い出しました。

風味絶佳

風味絶佳

 しかし、女というのは、何故、自分の恋愛の進行情況を他人に話したがるのだろう。(中略)それが、いわゆるガールズ・トークとやらに不可欠なのか。(P.108)

 一番最後に収録されている「夏めく日」は独立した作品。主人公が常軌を逸する行動に出てしまうのですが……常軌を逸するといっても、普通の人……普段はしていいこととしちゃいけないことの区別がつく人が、何かのはずみで踏み出してもおかしくないくらいの……なんていうか、「地味」な狂気なんですよね。『大きな熊が来る前に、おやすみ』に収録されている「クロコダイルの午睡」もそうだったけれど。
 ゲーム及びアニメの「School Days」みたいに、屋上からダイブ・ノコギリで「死んじゃえ」・包丁でグサッ、とかの「派手」な狂気なら他人事として見ていられるけれど、島本さんが描くくらいの「地味」な狂気だと、誤解を恐れずに言えば「なんか私もやっちゃいそう」と思わせるものがあるから……こっちの方が怖いかも。