よしもとばなな 『王国 その1 アンドロメダ・ハイツ』 新潮社

王国―その1 アンドロメダ・ハイツ―

王国―その1 アンドロメダ・ハイツ―

 まるで最後のところで落ちていく何かをぐっと受け止めるように、彼はいつでも自分以外のもののために存在していた。
 それでもその受け止める力は皿ではなく、どんなに目がつまっていてもしょせんざるにすぎなかった。それがわかっているからこそ、彼はこの世にいてちっぽけなこの町のかたすみで働き続けていくのだろう、と私は思った。そのざるがざるであることは永久に変わらず、生きている間に皿に進化することはたぶんない、でもいつかそうなることもあるかもしれないという希望は決して捨てずに、日々少しでも目を細かくしていくのだ。(P.9)

 これは、守られている女の子の物語だ。
 身内の愛情に、そして目に見えない存在に、それから育った土地のエネルギーに、今まで与えた分の感謝の気持ちに……何重にも、虹の輪のように、私のまわりには愛情の輪がある。
 どこまでもいつまでも大きなものに守られて生きていく、例えたまにそれを忘れて傲慢な気持ちになることがあっても、ひとりで生きているような気持ちで暴走しても、それさえも包んでいる何かがある。本人は孤独を感じたり悲しみや試練に大騒ぎしてじたばたといろいろな感情を味わっているが、大きな大きな目で見れば、実はいつでも守られている。(P.15)

 ああ……なんだかすごく納得してしまった。
 わたしはこの主人公みたいに変わった育ちをしていない、でもわたしも結局「守られている女の子」なのだろうと。へこんだり憂鬱になったり泣いたりできるのも、結局守られているからこそなんだろうと。