おんせん

 夫と娘といちばん近場の温泉へ行く。激しい雨が降ったりやんだりの日。今年は本当に、この地方にしては雪が少ない。
 娘、温泉は初めて……じゃないけど、前に温泉に入った時は家族湯だったから、大浴場は初めて。怖がるようならすぐに出ようと心の準備をしていたけれど、さほど嫌がらず裸になる。体を洗っている間はまだ少し表情が固かったけれど、大きいお風呂だねーお外が見えるねーと声をかけながら一緒に湯に入ると目を輝かせていた。他のお客さんはほとんど年配の方で、娘はたびたびあらかわいいと言われて(あがるまでに十回くらいは言われた気がするぞ)にこにこしていた。
 湯に浸かっている間に一度、「あらかわいい、男の子?」と声をかけられる。娘は生まれた時から髪が少なめで、たまに男の子に見られていたけれど、そう言われたのは久しぶりだったからおもしろかった。お湯で濡れて短い髪が少なく見える上に下半身が見えない状態だったからなあ、と思いながら、女の子なんですよ〜と答える。
 慣れてきて楽しくなってきたのか、お湯からあがろうとしても「もっとはいる!」「もいっかいはいる!」と言いはる。のぼせるから十、数えたらあがるよ、となだめてなんとかあがらせる。体を拭いてからも、「もいっかい!」とお風呂へ戻ろうとしたり、備えつけの大きなドライヤーの音を怖がったりしたけれど、どうにかこうにか服を着せ髪を乾かし脱衣所を出る。娘に小さな紙パックの牛乳を買い、夫に頼んで飲ませてもらって、自分は瓶のコーヒー牛乳を飲む。はー。
 いい湯だったし、娘が怖がらないこともわかったし、休みの日にはまた来よう……『あたたかい水の出るところ』の主人公見習ってお風呂セットちゃんと準備しよう。

あたたかい水の出るところ (光文社文庫)

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