忘れるのが怖かったこと

 小学生の頃は忘れることが怖かった。今は当然のように覚えているエピソードや、それまで見てきた風景を、時が経つにつれ忘れてしまう、永遠に失ってしまうのだと思うと怖くて仕方なかった。死ぬことより怖がってたかもしれない。だから忘れないようにと、やたら細かい日記をつけていたのだ、当時。

 全部覚えておけるわけないのだ、すべてを把握しておくには、日々いろんなことが起こりすぎている……と、あきらめがついたのはいつ頃だったか。

 今日ふっと、こたつでごろごろしていたら、そういう子どもの頃の感覚が一瞬だけ鼻先をかすめていった。忘れなきゃいけないことが山ほどあるくらい、人生が続くなんて信じられなかった頃。

 やっぱり、子どもの頃の方が人生つらかったな、としみじみ思う。わからないことだらけで、その場にあるものがすべてで、つらい時期はいつか過ぎるなんて信じられなくて、抜け出す術を知らなくて、怖かったよ。

 どんなに面倒事がふりかかってくるとしても、大人の今の方が、あの頃よりもずっと楽してる。そう思う。