伊坂幸太郎 『モダンタイムス』 講談社

モダンタイムス (Morning NOVELS)

モダンタイムス (Morning NOVELS)

「納期に間に合わないのは、要領が悪いんだ」
 ある時、加藤課長によほど腹が立ったのか、もしくは、残業続きの寝不足で我慢する気力を失ってしまったのか、「このスケジュールで、この仕事量で、いったいどうすれば間に合うっていうんですか」と叫んだ人間がいた。(中略)
 すると加藤課長は、「そりゃあ」とのんびりとした、けれど大きな声で、こう答えた。
「そりゃあ、工夫で乗り切れよ」(P.34)

 事態は改善されずとも、加藤課長の口から、反省や謝罪が飛び出せば、私たちも溜飲を下げたかもしれないが、この期に及んで、「今そこにある納期」を前にして誰もが緊迫し、朦朧としている時に、「工夫をしろ」なる抽象的な指示が飛び出してくるとは予想もしていなかった。(P.35)

 伊坂流プロジェクトX、とか言ったら誤解を招くかな。『魔王』より何十年か後、のお話。語り手の渡辺を始め、システムエンジニアさんたちがとっても頑張ってます。
 加藤課長のキャラクター造形がすごい。すんごく嫌な人だし身近にいてほしくはないけれど……憎らしすぎて憎めないというかなんというか。
 佳代子さんにしてもそう。こんなに恐い奥さんなのに、どっかかわいげがあるんですよね。